2016年12月23日金曜日

第21話 「成功体験を貯める」 (花まる:前原)

「前原さん、これを見てください!」

 「官民一体型学校の」の一つでもある「武内小」で仕事をしていると、ある先生から話しかけられた。
 その先生が持っていたのは、花まる教室でもおなじみの「なぞぺー」が載っているプリント。週末に私が子どもたちに配付して解いてきてもらったものである。子どもたちには、問題を解いてもらった後、プリントの裏に載せているアンケートで振り返りをしてもらっている。振り返りと言っても内容は非常にシンプル。「今回の問題、楽しく取り組めましたか?」と、「どの問題が楽しかったですか?またそれはなぜですか?」という質問、そして最後に「解いてみての感想を書いてみよう」の3つ。

 私に声をかけてくれた先生が見せてくれたのは、とある子のプリントに書かれていた振り返りであった。 
 武内小の2年生の女の子が書いてくれた振り返り。
 
「わたしはスクエアパズルがたのしかったです。なぜかというと、『「1」はすぐにきまるから』などとかんがえていくとすぐにできたからです。」

この振り返りを見せてくれた先生が興奮気味に、「いや~、この感想を見ると、しっかりと力がついてきているんだなぁって実感が湧きますよね!」と話してくれた。
他の学年の感想も見せてくれた。

「「難しかったんだけど、何とか頑張って解いてみたらすっきりした!」
「前よりもナンバーリンクがわかってきた!分かるとすごく気持ちがいい!」
「ナンバーリンクを解くことが速くできるようになってきた!」
「今度はひっかけ問題のようななぞぺーも見てみたいな!」
「次は自分もなぞぺーを作ってみるよう頑張ります!」
「ぼくはナンバーリンクが大好きです。なぜなら、一つ一つ決まるところを考えていって、最後完成しているのが本当に気持ちいいからです!」
必死に考える姿勢が、消した跡からも伝わってきますね!

これらの感想からも子どもたちが「考えることを楽しんでいる」様子が伝わってくる。
また感想の中には、「ナンバーリンクのやり方を今度の授業でもう一回知りたくなった!」という声もあった。私はこの声を好意的にとらえている。難しいと感じた時、「できな~い」「めんどくさ~い」で終わるのではなく、「どうやったらできるんだろう?」という思いがあるから、こんな声が上がってくるのだと思う。

以前とある本の中で、「偏差値55以下の子は予習型、55以上の子は復習型がよい」という話があった。ちなみにこれはどの母集団でも同様に考えていいという。
この話について詳しく読んだ後、私は次のように解釈した。
「偏差値で分けるということは一つの基準だが、目の前の子の学習への向き合い方を見極めることも一つ。その上で学習スタイルを予習型か復習型のどちらにするか考えて実践する方が、効果は出るのだ」と。
ここではなぜそういうスタイルにした方がいいのかというところにスポットを当てたい。

予習型にした方がよいという判断を下すにあたって。これは「その子が、授業を聞いて理解し、自分で扱える状態で家に帰ることができるかどうか」が基準である。事前に授業内容をある程度理解して授業に臨むと、「(1)わかっていることがあれば堂々と手を挙げて発表ができる」「(2)自分だけではわからなかったことだけに集中して話を聞くことができるので、学習内容を確実に理解することができる」。授業での成功体験(「分かり切った!」「発表できた!」など)は一見小さいかもしれないが、確実に自信につながる。
一方の復習型。授業を一度聞いて理解できるようなタイプの人間が予習をしてきてしまうと「先生、それ知っている~」と、授業自体がつまらなくなる。こういうタイプは、自分の知的好奇心をくすぐるもの・知識をフル稼働して考えないといけない課題などが提示されるほど、前向きに取り組もうとする。彼らにとっては、追究した成果・フル稼働して証明した答えが、自己肯定感を高める要因となる。

さて、少し長くなった。予習型・復習型については、ぜひ検討していただいていいと思うが、私が一番強調したいことはここではない。いずれかを選択するにも、子どもたちが成功体験を得られているかという視点が大切にされているということが注目すべきである。

成功体験がたまっていけば、できたときの快感が体に染みつく。追究できるタイプの人は、この快感を知っているから自然と「よし、もっとやってやる」「この方法じゃないかぁ、じゃあ別の方法でやってみるか」と粘り強くやってみる。先述の本の中でも、「東大や京大など、世間一般で賢いとされる人間や、イチローのような一流のアスリートなどは、勉強法・トレーニング法ももちろんなのだが、結局は最後の最後までしっかりと『泥臭くできる人間』である」という話も書かれていた。

泥臭く考えるために必要な粘り強さ。「めんどくさ~い」とすぐに投げ出すことなく、立ち向かう姿勢。これは「しっかりやりなさい!」と言われたからといってすぐに身につくことではない。立ち向かって何とか頑張りぬけたという経験が積み重なるからそれが習慣になる。その頑張るための動機。様々なのだろうが、その動機の一つに「気持ちよかった~」「おし、できた!」「あ、そういうことか!」という感動は大きく影響するのだと思う。

武内小の感想からは、彼らの心の中にしっかりと「成功体験」が積み重なってきているということが伝わってくる。この時期に貯めている「成功体験」が、将来彼らを動かすエンジンとなることを想像すると、本当に楽しみである。