2017年6月30日金曜日

第29話「同じ人が見守り続ける」(花まる:富永)

武雄市立橘小学校は官民一体型学校の取り組みが始まって2年目になり、地域の方が朝の花まるタイムに来ることが日常的な光景になっています。

花まる支援員の方は学校の2階にある地域支援本部の部屋に行くと、誰が何年生のクラスに行くかをお互いに相談します。我が子が学校に通っている保護者の方の場合、子どもの様子が気になるからそのクラスへ行く人、見に行くと子どもが照れて嫌がるからあえて他のクラスへ行く人、様々のようですが、大体の方が「昨日は2年生だったから今日は3年生。」と各学年を見て回ってくださいます。

けれど、公民館のKさんだけは毎朝、特別支援学級のあすなろ学級に足を運びます。昨年度からずっと朝の時間をともに過ごしてきたためか、Kさんとあすなろ学級の子ども達の間には信頼関係が築かれています。Kさんが子ども達を見守る視線は優しく、温かくて、まるで本当の我が子を見ているかのように思えます。

あすなろ学級のA君は特にKさんのことが大好きで、何かが出来るとまずKさんを探し、見つけるとにこっと笑います。花まるをもらう時も最初に目が合った私ではなく、Kさんからもらいたがるほどです。このA君はマイペースで、先生が「次に○○を出すよ。」と言ってから準備にとても時間がかかります。ですがKさんは、それを決して急かしたり、無理にやらせたりはしません。A君が準備に取りかかる気持ちになるようにそっと体に触れる、花まる道具が入った箱を目の前に置くなど、さりげないサポートをしています。

3分間の計算(サボテン)や視写(あさがお)のように、集中する時間は少し距離をとってほとんど声をかけません。気が散ってきょろきょろするときもありますが、A君は「やりきりたい」という気持ちがあるので、しばらくするとまた手を動かし始めます。そのことを知っているから、Kさんも信じて見守るだけなのでしょう。

Kさんが子ども達へ絶妙なタイミングでサポートできるのは、毎朝15分間、一緒に過ごしてきた時間の積み重ねがあるからです。きっと同じサポートの仕方を橘小学校に来てまだ数ヵ月の私がしても、A君のやる気は引き出し切れないと思います。学校に地域の方が入る仕組みがあるからこそ生まれた、素晴らしい信頼関係です。


花まるタイムは、教材を短い時間で区切りながらテンポよく進めることで、短時間集中や切り替えを子ども達に意識させる構成になっています。正直に言ってしまえば、あすなろ学級は本来の花まるタイムのテンポやリズムではありませんが、花まるタイムで一番大切な自己肯定感を育て、やる気を伸ばすという目的に沿った時間になっています。そうなっているのは、Kさんの存在が大きな要因となっていることは、言うまでもありません。

2017年6月14日水曜日

第28話 「大人の本気 ➡ 子どもの本気」(花まる:前原)

 花まる学習会の野外体験で大人気のコンテンツ「サムライ合戦」を武雄市内の朝日町と西川登町で開催した。
--------------------------------------------------------------
 ~サムライ合戦とは…~
 スポンジ刀で相手の太ももについている紙風船を割る戦い。
勝利の条件は、「相手チームの大将の紙風船を割る」こと。
勝つために重要なのは、「皆が本気になって取り組むかどうか」だ。
 
※本気になるから、勇気をもって敵に立ち向かえる。本気になるから、
チームで創意工夫をするようになり、自然と一体感が生まれてくる。
学年の上下、大人・子どもの区別なく、異学年・異年齢の集団で行うことで、より子どもたちの成長が見られることが期待できるプログラムである。

◆サムライ合戦 公式PVが見られます◆
------------------------------------------------------------

先日西川登小では「大人vs子ども」の戦いを行った。
一見子どもたちが不利に見えるが、想像通りにいかないことがサムライ合戦の面白いところである。子どもたちは、どうしたら勝てるのかを、動きながら考え、その考えを実践し続けていた。

その甲斐あってか、最後は「大人3vs子ども6人」まで攻め込むことができ、会場全体、「子どもたちの勝ちか…」という雰囲気が漂っていた。

ところが、ここで思わぬ出来事が起きた。大人チームで残っていた1人のお母さんが、相手のスキをついて敵陣までかけあがり、大将の風船を打ち取りに出た。大将の守りには2人の子どもがいたのだが、その2人のスキもついて、大将の風船を割ることに成功したのだ!
最後の最後で大逆転、大人チームが勝利をおさめた。この展開には当の大人チームも想定外で、大喜びしていた。

一方の子どもチーム。「あ~ぁ・・」「大人チームだもんなぁ。勝てっこないよ」と意気消沈しているのか…と思いきや、そうではなかった。
終わってすぐに、「もう1回!もう1回!」と、全員が叫びだしていた。雪辱に燃える力のこもった大合唱。この切り替えの早さはすごい。彼らの気持ちを汲み取り、時間オーバーではあったが、泣きの一戦が決まった。
 
最後の一戦の実施が決まってから、子どもたちは輪になって、作戦会議を始めた。ほとんどが3年生。それでも子どもだけで作戦会議が成り立っている。子どもたちの本気度、団結が伝わってくる場面であった。

そしていざ決戦。子どもたちは自分たちで立てた作戦を遂行し、善戦していたが、戦いの終盤、「子ども3人、大人6人」の状況に追い込まれてしまった。あとは大将と2人の守りのみ。2人は大将に密着しながら守っているのだが、大人チームの攻めもあり、相当きつい状況。

「もうここまでかぁ」と、子どもチームに負けムードが漂う中、ここで予想外の展開が起こった。
守られていた大将が、自身の守りをかき分けて、敵大将のところまで駆け寄って攻め込み、その勢いのまま、大人チームの大将の風船を一気に割ったのだ!

この予想外のクライマックスに、大人チームは驚きを隠せず呆気にとられていた。かたや子どもチームは歓喜に包まれていた。その前の戦いとは真逆のエンディングであったので、子どもたちにとっては、この喜びは言葉にできないくらい、非常に大きなものとなっただろう。

泣きの一戦を求めた子どもたちの粘り強さにあっぱれだ。しかし、その粘りを引き出したのは、実は「大人の本気」なのだ。
負けムードが漂う中、一気にギアをあげて勝ちを奪い取った大人の意地。それが子どもの心に火をつけて、想像以上の力をひきだす要因になったのではないか。
「本気でやることはかっこいいんだ」と見せること、「本気でやると達成感があるんだ」と一緒に分かち合うこと。そんな空間を一緒に創り上げるためにも、大人が先頭にたって「本気になる」ということは、重要なのである。


大人も子どもも、一緒に本気になれる「サムライ合戦」には、子どもたちの成長のきっかけがつまっている。